戦後日本の経済成長は、ハードウェア製造企業の主導によって成し遂げられました。しかし、いつまでもハードウェアメーカーだけに頼っていていけません。これからは、ソフトウェア製造技術でも世界をリードするような会社が出てこなければいけないと思っています。
「米国市場に輸出できるソフトウェアを製造できて一人前」というぐらいの危機感をもって「ソフトウェア製造業」の地位に挑戦するためには、技術者が本気にならなければなりません。
現在のソフトウェア業界では、安い給料で過酷な労働を強いられる者が多く、技術者が嬉々として創造性を発揮する機会も不十分です。
どうしてこんなことになってしまったのでしょうか?私はこう考えます。
- 間違った産業観により、ソフトウェア製造業が育たなかった
- 英語嫌いと保守主義のため世界のソフトウェア部品流通市場から取り残された
- 技術者に、経営に参加する興味・能力・機会・勇気が不足していた。
これらを解決していくしか、ないのではないでしょうか?
間違った産業観
社会の授業では、第一次産業・第二次産業・第三次産業という分類を教えていましたが、その延長で、単純にソフトウェア業=サービス業だと思うのなら、それは全くの誤りでしょう。本来のソフトウェア業界とは、第一次産業的なコンテンツ制作業に、ソフトウェア製造業、さらにソフトウェアサービス業をも包含する、大きな業界であると私は考えます。
たとえば以下の表のように、ソフトウェアサービス業と対比してみれば、ソフトウェア製造業という業態が「ある」こと、は明確になると思います。
ソフトウェア製造業 | ソフトウェアサービス業 | |
---|---|---|
要するに | 金の卵を産む鶏を育てる仕事 | 金の卵を料理する仕事 |
売上の源泉 | パッケージソフトの販売・サポート | カスタムメイドシステムの開発、パッケージのカスタマイズ |
必要スキル | 特定分野の市場・業務・技術について広く深い理解が必要 | 顧客やハードウェア固有の要件に関する知識が重要 |
リスク/リターン | 製品がヒットしなければすべての努力は無に帰すが、ヒット商品に育てばリターンも大きい | 顧客と長期的関係を築けば安定収入が確保できるが、大口顧客を失った場合のリスクも大きい。 |
自動車産業にたとえると | 自動車メーカー・自動車部品メーカー | 自動車ディーラー・整備工場・ガソリンスタンド |
私がなぜ、ソフトウェア製造業にこだわるのか?
それは技術者としてモノ作りの自由を手放したくないからです。
ところが、今のソフトウェア業界はもっぱらサービス産業としての自覚を持って経営されている会社ばかりであり、気の利いたソフトウェア技術者にとっては挑戦機会が少なすぎです。
世界のソフトウェア部品流通市場から取り残された
日本のソフトウェア業界の構造的問題は「開発生産性があがらない」ことです。
開発生産性をあげる代表的手法として、「部品の再利用」「ツールの利用」がありますが、日本のソフトウェア業界は、世界のソフトウェア生産財流通から取り残されていると私は感じています。ソフトウェア部品(コンポーネント)・開発ツールの供給地は、圧倒的にアメリカ・ヨーロッパです。にもかかわらず、日本国内では海外からコンポーネントを調達しようという発想があまりありません。
メーカーが部品会社を「系列」としてきた製造業における成功体験のせいなのか、ソフトウェア部品についても自前開発・国内調達であれば安心できるというソフトウェアサービス企業が多ようです。
ハードウェアと異なり、ソフトウェアは輸送費も関税も完全にゼロで、世界中から調達できるのですからに、なぜそれをしないのか?
世界を知らないのか、技術を評価できないのか、英語に弱いのか。
経営者と技術者が互いに甘えあって現状を放置していては、事態は悪化するばかりです。
技術者と経営者が協働できなかった
わずかの予算と、技術評価の目利きと、最終製品のアイディアさえあれば、世界中から良質のソフトウェア部品・開発ツールを調達できるのに、それができなかったのは不幸だというほかありません。
技術者がするべきこと
- 英語力の強化:海外からソフトウェア部品を購入するのに日常会話は不要ですが、
技術的Q&Aの読み書き能力は重要です。マニュアルが読めて、電子メールで質問が
できれば、それで十分です。 - 予算の獲得:良質の部品を調達するには、「目利き」の能力が大切です。
その力を磨くには、実際に良さそうな物を積極的に購入して、
実地に使って評価してみなければなりません。
メーカーたるもの、ライバル製品や原材料・部品を購入する予算は必要です。
責任ある技術者には予算獲得の義務があり、それを怠って、
「フリーのライブラリはありませんか?」と探し回るのは、間違いと思います。 - 時間の獲得: 仕事に追われ、
新しいモノ作りに挑戦できなくなっていませんか?
声を大にして叫ぶべきだと思います。
経営者がするべきこと
- 技術者の時間を将来に投資する: 日々の売上を稼ぐために
開発者をフル稼働させては、将来がありません。技術者一人でも、負荷を
70%にして、残った30%を環境改善・生産性向上に向けるべきなのです。 - 技術評価・コスト見積・経営計画に技術者を参加させる:
信頼できる技術者と話し合う機会を、もっと持ってください。
見積りの当たり外れを振り返ってかみしめてください。
これができれば、ソフトウェア業界で失敗することは絶対にないのです。